一度だけ

一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております   山崎方代
   (「15歳の短歌・俳句・川柳」①愛と恋より。)

私がこの短歌に初めて出会ったのは今から10年ちょっと前のことだ。「知っております」にどきっとした。知っているのが「南天の実」でなかったら、そうは感じなかっただろう。あの赤い実のもつ不思議な力である。わたしにとって、「南天の実」は動かないモノであった。幼い頃、悪い夢をみたときは南天をゆすっておくとよいと言ったのは母方の祖母だ。祖母の家の中庭には涸れた井戸と南天と葉蘭があって(もちろん他にも木は植えられていたはずだが覚えていない)、ちょっと怖くてちょっと心ひかれた。土間になった台所から中庭に抜ける通路の薄暗さと南天の実の赤が記憶に残る風景である。

2016年2月10日 17:30