なすの煮浸しここにしかない夜となりし    八上桐子

(第112回ねじまき句会より。)
しみる食物というのがあるように思う。口の中に入れた瞬間に、小さな世界がひらくような。香、温度、食感というその食べ物総体ががつくりだす世界だ。そのことによって、現在自分が存在する夜のこの瞬間が「ここにしかない」ものとして規定される。「なりし」という文語表現の連体形止めもその夜の特別な感じを構成する不可欠のファクターになっている。実は、この句会の前夜、わたしはなすの煮浸しを食べてからだの中に煮浸し感を保有していたので、さらに共振してしまったのかもしれない。

2014年8月 6日 09:39